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砕片


どなたかの「奴隷」でいることは
つらいことなのだろうか。
苦しいことだろうか。
あのひとも、あの子も
気づけば消えてしまった。

「遠慮をするな」
「我慢をしなくていい」
主は言った。
それは、嘘だ。
遠慮も我慢もしないで
ただ我を振りかざすだけで成り立つ
関係性なんてどこにもない。
他者と向き合う以上、必ず。

気遣いと言えば、聞こえがいい。
私は「奴隷」の分を弁えて
そうして主の前に在ろうと決めたのだ。
どれだけ主がその先を見たがっても
「奴隷」の私しか見せないと決めたのだ。

その瞳にどう映ろうと
それはあなたの「奴隷」です。
主様。

切子


変わったと
そうおっしゃっていただく。

なにも嫌じゃなくて
なにも好きじゃなかった。
嫌で恐ろしくて抗ってみたかった
つらくて泣いて逃げ出してみたかった
今は逃げ出してばかり。
すこしずつ落としてくださった表面は
いつか薄皮一枚きりになって、
すぐにでも青く浮かぶ血管から
血液を噴き出させてしまいそうだ。


砂跡


いつだったか
きっと素っ頓狂なことを申し上げたせいで
わざわざ主がおっしゃってくださったことがある。

「私がサディストだとわかって言っているのか?」

サディストなんて、知らない
マゾヒストのことも知らない。

ただあなたの放つ衝動に、
仮初めに向けられる欲望に
奥底から引きずり出されるように
魅せられ、憧れ、欲してしまうのです。


思い描くたび
湛えるその白さ。
一瞬でホワイトアウトして
はじめから存在しなかったかの如く。

あなたは降り積もった新雪のよう。
お目にかかる刹那、かたちを保つこともなく
一切を残さない。


円網


背後から耳朶にふれるかと思うほどに
近く迫る主のくちびるが低く囁く。
「知っているぞ」
決して深い意味はなかったのに
すべて見透かされているのだと
思わずその場にへたり込みそうになった。


ただ主の一瞥で膝を折り、頭を垂れ
頭蓋がみしとたてる音をきく。
瞬時に潤む裂け目は
脚の間から透明な糸をめぐらす。

搦め捕られるのは、だれ。